「知は力なり」と言われます。靴を買うときは自分の足のサイズを知っておく必要があり、新しい家具を組み立てるときは説明書を読む必要があるでしょう。また、誰かにお子さんの面倒をみてもらうときは、必ず信頼できる気配りの行き届いた成人を選ばなければなりません。

それと同じように、SDメモリーカードを購入するときにも、各スピードクラスがどのような意味を持ち、それぞれのクラスに最適な用途は何かを知っておく必要があります。カードを最大限に活用するためにも、目的の用途やデバイスに適したSDメモリーカードを選ぶことは非常に重要です。せっかく購入したカードの性能を引き出せなかった、あるいは目的に見合う動作をしてくれなかったということのないようにしましょう。これは、SDアソシエーションが新たにビデオスピードクラスを発表したことで、さらに重要性を増しています。 このスピードクラス は、ユーザーが最適な品質で動画の撮影と再生を行えるようにすることを目的として策定されました。

スピードクラスの規格

「スピードクラス」という言葉は、ビデオスピードクラス(V)、UHSスピードクラス(U)、SDスピードクラス(C)という3種類のプロトコルを表すために使われています。

つまり、スピードクラスはSDスピードクラス(C2、C4、C6、C10)、UHSスピードクラス(U1、U3)、そして新たに策定されたビデオスピードクラス(V6、V10、V30、V60、V90)の3種類に分類できます。

元々スピードクラスとは、SDメモリーカードを採用するカメラの増加に伴い、ユーザーがカードを簡単に選べるようにする目的で作成されたものです。また、 SDアソシエーションでは、動画撮影での採用の広がりに対応するため、スピードクラス規格を拡張してきました。各規格ではSDメモリーカードとデバイスの最低データ転送速度が定められており、特定のスピードクラスで動作する任意のデバイスが使用するカードの性能が保証されています。そして2016年2月に発表された最新規格では、ビデオスピードクラスが策定されています。これは、ユーザーにとっては新たな可能性を開くものであり、SD業界にとっては新たなイネーブリングテクノロジー(何かを実現する技術)となるものです。このクラスは、マルチファイル録画そして超高精細度の3D 4K/8K画像および360°動画撮影の導入を進める業界の動向に応じて発表されました。このような用途では、最大90 MB/秒という高速なキャプチャー性能が要求されますが、これを実現することで、この解像度の動画でも容易に再生または撮影することができます。

高解像度のコンテンツは、その大部分がデジタル写真やドローン、そして新たに出現したアクションカメラという分野で生み出されてきました。そのため、4K/8Kという解像度に対応した高速なデータ転送速度の需要に応えるためにも、明確に定義されたビデオスピードクラスに対するニーズは非常に重要だったのです。新たに策定されたビデオスピードクラスでは、主にカードの最低保証書き込み速度を基準とした一連の性能クラスが定められており、さらに高解像度の動画に対応する規格の基礎を成す役割を果たしています。またSDカードの各メーカーにとっては、技術的なメカニズムを再編し、新しいSDプロトコルを実現するうえで重要な存在となります。これにより最新の、そして将来のNAND技術のどちらについても用途の実現と最適化が可能になり、あらゆるSD用途に対応することができます。

スピードクラスの選択

ユーザーにとって重要なことは、 用途またはデバイスに適した正しいスピードクラスを選択することです。スピードクラスが高くなるほど、使用するデバイスで要求される保証速度が高いことを 示すため、対応するカードの最低保証速度を判断する場合に役立ちます。

たとえば一般的によく使用されるクラス4カードの転送速度は4 MB/秒です。クラス2、4、6はどれも同様の映像撮影用途を想定したカードであり、静止写真の撮影と保存だけを目的とした場合はこの数値に関係なく機能します。また、スマートフォンのストレージや音楽または動画の再生で使用することもできますし、MPEG-2(HDTV)の動画撮影にも対応しています。クラス4は、基本的なユーザーのニーズを満たす製品としてコスト効果に優れた選択肢となり得ます。

クラス10は実現できる機能の幅が広がるクラスであり、最も大きく成長したカテゴリです。これは主に、カメラやスマートフォンに高精細で撮影できる機能が導入されたことが理由です。このクラスは、フルHDの動画撮影(1080p)やHD静止写真の連続撮影を行う場合に推奨される最低限の速度を持つクラスです。ファイルを転送する性能が向上するため、より高速な動画、音楽、写真の転送が実現し、HD静止写真の連続撮影用途でも使用できます。この機能はすでに多くのカメラに採用されており、スマートフォンでも採用が進んでいます。

ハイエンドに分類されるのがUHSスピードクラスです。UHS対応デバイスだけを対象として設計されており、UHSカードに動画を記録する最低書き込み性能が指定されています。UHS-I/UHS-IIのUHSスピードクラス1はファイル転送速度が10 MB/秒であり、最低保証速度はクラス10と同じです。ただしホストデバイスがUHS-Iに対応している場合は、さらに高速な最大速度にも対応できます。UHS-Iでは到達できるピーク速度が高くなるため、さらに高精細な動画や写真の撮影が可能です。

UHS-I/UHS-IIのUHSスピードクラス3は、ファイル転送速度が30 MB/秒です。2K/4K動画の撮影と再生に最適なクラスであり、各種追加機能を使用した動画撮影が可能なデバイスにも適しています。たとえば、4K動画やGPS追跡機能などを内蔵したドローンが挙げられます。このクラスは、デバイスに採用されている技術から最大限の性能を引き出す場合に推奨されます。

そして最新のSDメモリーカード技術がビデオスピードクラスであり、新たな選択肢となるクラスです。現行の各種カードクラスは、今後このクラスに置き換えられることになります。これまで、一般的にオートフォーカスカメラではクラス4のSDメモリーカードで十分でした。しかし現在では、多くのカメラに2K以上の解像度で撮影する動画モードが導入されているため、より高速なデータ転送性能を実現する目的でビデオスピードクラスが発表されました。

新たに策定されたビデオスピードクラスでは、主にカードの最低保証書き込み速度(メガバイト/秒単位。Vに続く数字)を基準とした一連の性能クラスが定められており、V6、V10、V30、V60、V90の各クラスで表示されます。移行期間中は、Vとクラス速度のどちらも使用されます。たとえば、HD 720pまたは1080p(2K)の動画撮影機能を持つカメラまたはビデオカメラの場合、UHSスピードクラスのU1またはU3、あるいはV30~V90のいずれかを使用できます。以下の図に示す最低保証速度を必要とする新たな動画撮影用途では、すべてそれぞれに対応する新しいビデオスピードクラスをサポートすることが推奨されます。

各スピードクラスでは、それぞれ異なるカードアクセス方法が定義されており、NAND技術に密接に関連しています。そのため、各メーカーが製造したSDメモリーカードが、特定のキャプチャー速度に対応したビデオスピードクラスの要件を満たしていながら、それに相当するスピードクラスまたはUHSスピードクラスの要件を満たしていないというケースも考えられます。たとえば、V30の要件(ビデオスピードクラスのプロトコルを使用した30 MB/秒のキャプチャーをサポート)を満たすSDXCカードでありながら、クラス10の要件(SDスピードクラスのプロトコルを使用した10 MB/秒のキャプチャーをサポート)しか満たしていないというケースもあり得るということです。

そのため、重要なルールが必要となります。それは、使用するデバイスまたは用途の要件に合わせてSDメモリーカードを選ぶということです。

最大速度:もう一つの重要な要素

SDメモリーカードが持つその他の重要な要素としては最大速度が挙げられ、特にホストデバイスの利点を最大限に活用する場合に重要です。カードがホストデバイスの速度要件を満たせていない場合、ホストはカードへの書き込みを中止するか、カードが書き込み速度に追い付くまで待機しなければなりません。

現行のクラス10カードの最大バス速度は25 MB/秒です。この最大バス速度では、1080pの動画を60フレーム/秒(fps)で撮影する場合でも、問題なくカードに記録できます。ただし、120 fps以上の撮影に対応したデバイスの場合、このカードの速度では十分とは言えません。撮影を開始できても、しばらくして停止してしまう可能性があります。

UHS-Iカードには SDR25、SDR50/DDR50、SDR104の3種類が存在し、それぞれ25 MB/秒、50 MB/秒、104 MB/秒のファイル転送速度に対応しています。

UHS-IのUHSスピードクラス3またはV30~V90は、解像度が1080pで120 fps以上の動画、あるいは4K動画の撮影に最適な選択肢といえます。また4Kの場合でも、フレーム/秒が重要な要素となります。30 fpsではUHS-IのUHSスピードクラス1カードやV6~V10を使用することもできますが、60 fpsの4K動画ではUHS-IのUHSスピードクラス3カードまたはV30~V90が必要となります。

UHS-Iと同様に、UHS-IIにも152 MB/秒および312 MB/秒という2種類のバス速度が存在します。現在のところUHS-II対応デバイスは非常に限られていますが、動画撮影の解像度やフレーム/秒に対する要件が高まることで、新しいデバイスではUHS-IIカードが必要となることでしょう。UHS-IIインターフェイスを採用したホストデバイスでは、V30以上が推奨されます。

UHS-IとUHS-IIでは、インターフェイスの設計変更により速度に変化が生まれていますが、これはカードの材料開発に大きく依存しています。これにはNANDフラッシュの種類やNANDおよびコントローラの構成のすべてが影響しているため、カードメーカーのデータシートまたはパッケージで確認することをお勧めします。

その他の考慮事項

あるデバイスや用途に対して使用するスピードクラスが高すぎても、ユーザーにとって技術的な問題が生じることはありません。問題があるとすれば、価格の問題ということになります。たとえば、一般的なスマートフォンで写真を保存するためにカードを使用する場合、クラス10の性能が必要になることはありません。ただし、そのような高速なカードを使用したからといって、害になることもありません。ユーザーは少しだけ必要以上に高いお金を支払うことになりますが、より高い性能を必要とする他のデバイスでもそのカードを使用できるという柔軟性を得ることができます。

ここで、考慮すべきその他のポイントについて説明します。ストレージとしてカードが利用され始めたころは、「SD」が標準的なセキュアデジタルカードであり、記憶容量は最大でも2 GBしかありませんでした。SDHCは現在最も一般的に使用されており、4 GBから32 GBまでの容量が用意されています。そしてSDXCは最上位の容量を提供し、64 GBから最大で2 TBまで対応しています。ただしデバイスでサポートされていないカードを購入した場合、そのカードを使用できない可能性があります。たとえば、旧式の携帯電話やカメラにSDXCカードを挿入しても動作しない、あるいは容量が32 GBに制限されてしまう場合があります。そのため、ホストデバイスとの互換性を確認し、必ずデバイスに適したカードを選択する ことが重要です。

同様に、UHS-IIは200 MB/秒を超える超高速な転送速度に対応していますが、その利点を活用するためにはUHS-II対応デバイス が必要です。それ以外のデバイスでは、性能が大幅に低下してしまいます。

今後のスピードクラスの動向

カメラをはじめとするデバイスの多機能化/高性能化が進んでいることから(たとえば、ドローンで4K動画を撮影したり、GPS追跡機能を使用して足跡のマップを作成したりできます)、スピードクラスや最低速度に対する要求が高まっています。これは、新たにビデオスピードクラスを発表するきっかけともなりました。

また、近年ポピュラーになっているのがスローモーション動画です。1080pのHDや4Kの動画でスローモーションを使用するには、さらに高いフレーム/秒が必要になります。スローモーション動画はこれからも普及し続けるものと思われ、ビデオスピードクラスがその牽引役となることでしょう。

市場にとって次の大きな潮流となり得るのが8K動画です。2016年の国際家電ショー(CES)で大きな注目を集めたのが8Kテレビでしたが、ビデオスピードクラスは8K時代の到来を告げる象徴となることでしょう。新たに策定されたビデオスピードクラスは、ストレージやデータ転送で将来的に何が要求されるのかを示す好例であり、業界各社が先手を打つための目安となるはずです。

SDメモリーカードの新たな用途

過去数年間に出荷されたmicroSDメモリーカードの大部分は、電話機での使用を目的としたものでした。この市場セグメントは現在でも成長傾向にありますが、その勢いは大幅に低下しています。

組み込みソリューションでの利用規模はまだ小さなものですが、今後の成長が見込まれています。その良い例といえるのがRaspberry Piです。小型で安価なPCライクのコンピュータであり、特にヨーロッパで普及しています。さまざまな産業用途への組み込みが可能であり、ストレージとしてmicroSDメモリーカードを使用しています。

より高速な最低保証速度だけでなく通常よりも優れたランダム性能が今後カードに求められることでしょう。SDメモリーカードが持つ拡張性と着脱性から、自動車や航空機に加え、ほとんどの製造設備が将来的な成長分野となることでしょう。

また、モノのインターネットの拡大に伴い、ネットワークに接続された多くのデバイスがストレージを必要とすることになります。このようなデバイスにとって、コンパクトなサイズと価格という面で、microSDメモリーカードは理想的なソリューションといえます。

購入時に注目すべき点

SDメモリーカードをサポートするホストデバイスには、どのカードがサポートされているのかを示すロゴがデバイスに表示されています。カードを購入する場合は、このロゴに一致する製品を選んでください。現在ではほとんどのデバイスがSDXCカードをサポートしており、このレベルのカードはすべて下位互換性が確保されています。そのため、カードのサイズにかかわらず正常に動作するはずです。これは、ビデオスピードクラスにも当てはまります。また、ホストの製造元によっては、デバイスに最適なスピードクラスをユーザーマニュアルで説明しています。

SDメモリーカードを購入する場合は、上記の点すべてを念頭に置くことで、適切な製品の購入に役立ちます。使用するデバイスとカードの用途を考慮し、ニーズに最適なカードを入手できるようにしてください。

アンドリュー・ユーイングは、SDアソシエーションのメンバー企業であるKingston Technology Companyでフラッシュ事業部門のマネージャーを務めています。連絡先はAndrew_Ewing@kingston.comです。マイク・モニーは、Kingston Technology Company, Inc.のテクノロジーリソースグループでシニアテクノロジーマネージャーを務めています。連絡先は Mike_Mohney@kingston.comです。マックス・ラムは、Kingston Technology Company, Inc.のSDカードエンジニアです。連絡先はTung_Lam@Kingston.comです。

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